補助事業の概要

 唾液中酵素を指標とする東日本大震災被災者のストレス状況関する調査以下の事業につきましては財団法人JKAの補助のもと行われました。財団法人JKAからの補助に付きお礼申し上げます。

補助事業番号24-4-004
補助事業者名学校法人 岩手医科大学
補助事業名平成24年度(復興支援)被災者に対するカウンセリング、調査活動

1、補助事業の概要

(1)事業の目的

本事業の目的は,東日本大震災の被災者を対象にして,精神的ストレスの指標として問診と唾液アミラーゼ量,そして生活習慣の指標として血圧および口腔の状態を調べ,精神的ストレスが高い被災者の身体的・社会的特徴を解析することである。

(2)実施内容

①唾液中酵素を指標とする東日本大震災被災者のストレス状況関する調査
期間
平成24年5月11日~5月25日
平成24年7月17-20日
平成24年12月11日~12月15
実施内容
健康診断に併せて大槌町民の唾液アミラーゼ活性を測定した。
②岩手県内陸部における唾液中酵素を指標とするストレス状況に関する調査
期間
平成24年6月1日-3月31日

2、事業実施概要

2011年3月11日に発生した「東日本大震災」では多数の犠牲者が生じる共に,多数の被災者の方々が住居および仕事を失い,震災から1年半以上経過した現在でも仮設住宅等で避難生活をおくっています。岩手県においても沿岸地区は壊滅的な被害を受け、特に岩手県大槌町では大きな被害を受けています(図1)。

(図1)津波被害を受けた岩手県大槌町市街地中心部

また今回の震災では沿岸市街地の人口密集地帯に津波被害が集中し、人的被害が顕著にみられると同時に,住居被害も大きく岩手県大槌町では人口の10%が死亡もしくは行方不明となり,市街地中心部の6割強が全壊の被害を受けています(図2)。

(図2)岩手県大槌町津波被害図

市街中心部がほぼ被災し、ほぼ全壊した。

震災被災者の多くで健康被害の発生や不眠や不安,抑鬱の問題についての報告も行われておりますが,我々は被災者のストレス状況を把握することが必要であると考えました。今回我々は財団法人JKAの補助のもとで,東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査研究の一環として,地震直後に発生した大津浪で大きな被害を受けた岩手県大槌町で平成24年5月から平成25年3月まで歯科健康診断(図3)と併せて,酵素分析装置(唾液アミラーゼモニター)を用いて交感神経系ストレスマーカーである唾液アミラーゼの活性値を測定を行いました。(図4)

(図3)歯科検診概要

(図4)唾液アミラーゼ測定用装置(左)及び測定状況(右)

また大槌町民のストレスマーカーの状況について,震災被害の影響について確認するため,震災被害の少ない地域の状況と比較するために,岩手県内陸山間部地域の葛巻町および内陸都市部である盛岡市で同様の調査を行い,各地域住民のストレスマーカーについて比較検討を行いました(図5)。

(図5)調査対象地区

3、事業成果

岩手県大槌町の住民は平成24年5月時点で唾液アミラ-ゼ活性値が高い傾向で推移していることが確認された。また平成24年12月時点でも,唾液アミラ-ゼ活性は改善傾向にはあるものの,震災被害が少ない岩手県内陸部と比較すると高い傾向を示しました(図6)

(図6)2012年5月時点での各住民地域における唾液アミラーゼ活性値

被災地の大槌町で有意に唾液アミラーゼ活性値が高い値を示した。

また大槌町の被害地区別の状況について唾液アミラーゼ活性値について比較検討したところ,被害無し地区,半壊地区,被害無地区全てに平成23年12月と比較して平成24年5月では唾液アミラーゼ活性値が有意に減少傾向を示していた。しかしながらすべての地区において正常基準値を上回っていました。(図7)

(図7)大槌町各被害地区住民と唾液アミラーゼ活性

大槌町の被災後1年2ヶ月経過した2012年5月の時点で唾液アミラーゼ活性は有意に低下し、ストレスの改善傾向が伺えるが、いまだ基準値より高い値を示した。

また大槌町被災者で60歳以上の高齢者とそれ以外の住民で唾液アミラーゼの活性値を比較したところ,高齢者群,若年者群共に平成23年12月と比較して平成24年5月では唾液アミラーゼ活性値が有意に減少傾向を示していた。しかしながら60歳以上の高齢者群においては平成24年時点でも唾液アミラーゼ活性値は基準値を上回っていました。この結果からこの結果,震災後ある程度の時間が経過しても震災被害の大きかった岩手県沿岸部住民は高齢者を中心として,強いストレス環境にあることが推測されます。(図8)

(図8)大槌町民年齢別住民の唾液アミラーゼ活性

2012年12月時点でもストレスの基準値30以上の高値を示す方が多く認められた。
上記の結果については、学会報告(下記参照)をおこなった。
平成24年度日本歯周病学会第55回秋季日本歯周病学会学術大会
(阿部ら:「東日本大震災被災者のストレスマーカーの変動について」)
平成24年度日本歯科保存学会第136回春季学術大会
(佐々木ら:東日本大震災被災者の血圧および唾液アミラ-ゼ活性の変動)
平成24年度日本歯科保存学会第137回秋季学術大会
(諏訪ら:「東日本大震災被災者のアミラーゼ活性および口腔乾燥度について」、「岩手県沿岸部と内陸都市部・農村山間部との比較について」)

4、予想される事業実施効果

 被災地住民のストレス状況については問診、アンケートについては報告が多く行われているが,具体的な生体マ-カ-を用いて行ったストレス評価についての報告は少ないです。この結果を外部報告することで震災被災者の心身両面での健康管理についての新たな指標となり得る可能性があると考えております。また我々は平成26年5月現在も岩手県大槌町を中心として、健康診断と併せて継続して唾液アミラ-ゼ活性値を併せて測定し、継続的な調査を行っている。

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